「今日は仕事をさぼっちゃおうかと思うんです。 一緒にお休みしませんか」 去年の忘年で隣同士の席になって、 一緒にビールを飲みながら世間話をした覚えはある。 それ以来会社の通路ですれ違うときに、ちょっと挨拶を交わすだけだった。 会社を一日休むと、翌日溜まった仕事を片付けるのが大変だから、 この数年間は結婚式と葬式以外、休暇を取ったことはない。 「休んで何をするんですか」 「特には決めてはいませんが・・・」 職場と家庭だけのワンパターンの生活だが、 これしか稼ぐ手段を知らない。 仕事が溜まるのは嫌だが、今日は特に急ぎの仕事はない。 「そうだね・・・。一緒にさぼっちゃおうか」 二人は、駅の改札口から出て、店のシャッターの閉まった繁華街を歩いた。 「私、こうして会社をさぼってみたかったの。持月さんを電車の中で見かけたから 声を掛けてしまったんですが、ご迷惑ではなかったかしら」 「とんでもないですよ。こんな朝早くから、知らない街をブラブラするなんて、 別世界のようですよ。今日はこれから何をしましょうか」 「この前から上映されている、”神のお告げ”が見たかったんですが、 そこの映画館でやっているんですよ。 午前中はお客も少ないでしょうから リラックスできると思いますが」 「映画なんて何年ぶりかなあ・・・。行きましょうか」 「会社の方に風邪で休みますって電話をしなくっちゃね」
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